恐怖怪談集0006

お祓いは効かない

 
 これは、セールスマンの方にお聞きした話である。この方を仮にAさんとでもしておこう。

 Aさんは、昔、アメリカ村にある古着屋でアルバイトをしていた。次々と入荷する古着。店は繁盛していたという。
中には、アメリカ軍などの官給品(軍隊から支給された軍服)などもあり、人気は上場だったそうだ。
ただ、この迷彩服は、綺麗にクリーニングしなさい、と店長からは厳しく言われていたという。これらの服は戦闘に使用するものであり、血などが付着しているものも、少なからずあるからだ。

 ある夕方、Aさんは、遅くまで伝票の整理をしていた。ここのところの繁盛で、疲れはピークに達していた。

その時である。・・・・・・何か物音がした。

 誰もいないはずの2階から物音がする。在庫の荷物をゴソゴソ探るような、そんな音だった。

「あれ!? 店長、まだ残業しているのかな??」と、Aさんは思った。

 そういえば、昨日、届いたばかりの迷彩服が、梱包のまま、束で置いてある。店長が在庫整理のため、仕分けでも始めているんだろう、、Aさんはそう思った。

 しばらくして、音が止んだ。すると、階段を「トン・トン・トン・トン・トン」と降りる音がする。やはり上の階では店長がまだ残業しているようだ。階段を降り切ると、Aさんが伝票整理しているデスクのそばまで、やってきた。Aさんの肩越しに後ろから仕事の様子を覗いて見ている。

Aさんは、ただならぬ雰囲気を感じた。

違う。何か違う。・・・これは・・・店長じゃないような・・・

 不気味な雰囲気に振り返れずにいるAさん。振り返って「お疲れさまですぅ。」などと言える筈もない。

 暫くすると、それはまた2階への階段を一歩一歩上り始める。

 ふっと、緊張が解ける。そうなると、「やっぱり、店長だったんじゃないか!?」なんて思えてきた。そうであれば、無視して仕事をしていた自分は心なしか、失礼に当たる、なんて思ったりもした。

今からでも遅くはない。Aさんは「店長、おつかれさまです!」と言おうと思い、振り返った。

!!!!!!!!!!!!ッ!!

Aさんがみたものは、迷彩服を着たアメリカ兵らしき男が、階段の奥に消えていくところであった。

・・・・・・・店長なんて、ハナから居なかったのである。

 翌日、Aさんは、昨日の体験を店長に報告した。すると店長は、
「そういうことは、前からあるんや。戦士した兵士が自分の軍服をさがしに来てるんだろう。」という。

・・・・・・Aさんは、「じゃあ、お払いしましょう。」と店長に提案した。

なんと、店長から思いがけない返事が返ってきたのである。

・・・・・・「お払いは何回もやったんや。でも、次から次へと迷彩服は入ってくる。するとまた幽霊は出る。意味ないんや。」

・・・・・・なんと、「お払いは効かない。」だから、せめて、入荷したときに付着している汚れや血を綺麗に洗い落として何とか、しのいでいる、との事であった・・・・・・・・・・。