恐怖怪談集0007

山神楽


 これは、Mさんがまだ、ピチピチの新入社員の時の出来事である。
彼ら新入社員一行が、研修の為、とある山寺へ一週間旅行した時の事である。

 その日の研修はつらいものであった。座禅を何時間も組まされたり、説法を聞いたり、会社の未来に関する輝かしい講演を何時間も聞かされたりと、彼らは疲れきっていた。

 その日の晩、夕食や風呂も終わり、やっと自由時間が訪れた彼らは、自分たちの部屋で思い思いの時間を過ごしていた。

 Mさんの部屋は、窓を開けるとすぐ山肌、という、景色もへったくれもない場所にあった。
Mさんも、自分にあてがわれた部屋で、タバコを燻らし、リラックスしていたときである。

突然、空を切ったかのように、「メキッ・・・・・・」と木がしなるような音が聞こえてきた。

「古い木造の建物なので、柱か欄間が水分を吸ってしなっているんだろう。」

Mさんは、そんな事を考えながら、テレビでも見ようと、リモコンに手を伸ばした時だった。

メキッ!!メキメキメキメキメキメキメキッ!!!!

 突然窓のすぐそばの山から、沢山の木が折れて倒れてくる音がしたのである。

「やばい!!このままでは押しつぶされるっ!!」

そう思った彼は、一目散、パジャマのままで廊下へ飛び出し、中庭に躍り出た。
 そこには、なんの変哲もない、中庭と山があるだけだった。

同僚にその事を尋ねても、皆一様に「知らない」という。

彼は、何が何だか分からないまま、数年の時が流れた。

ふと偶然買ったお菓子のおまけに、妖怪のカードが入っていた。
 それは「天狗」のカードで、裏面にはこう書かれていた。

「天狗。山の主。西の妖怪の総大将。大きなうちわで突風を起こし、木々をなぎ倒す。森林で、木々をなぎ倒す音が聞こえる時がある。その音は「山神楽」と呼ばれる。

なんとなく納得したように思えた瞬間であったそうな。