恐怖怪談集0010

迷子の患者さん



今も看護士を続けているAさんが、20年程前に勤めていた病院でされた体験談です。

その当時、Aさんは大きな総合病院で働いていました。

階毎にナースステーションがあり、それぞれ持ち場が決まっていたそうです。

Aさんは4階が持ち場で、その時、ナースステーション内で仕事をしていました。

すると、一人の男性患者さんが、廊下をうろうろしているのが目にとまりました。

Aさんは、見かけない顔なので、この階の患者さんではない事がすぐに分かりました。

(運動がてら散歩でもしているのかな?)

と少し気になっていたそうです。

他の看護士さん達も、廊下をうろうろしていた男性患者さんには、気付いていたようでした。

暫くしてその男性患者さんは、ナースステーションの窓から顔を覗かせ、

「自分の部屋がわからなくなってしまった。何処か教えて欲しい。」と言ったそうです。

Aさんの同僚が、その男性患者さんの部屋番号を聞いてみると・・・、

この階の部屋番号ではありませんでした。

病棟は、階毎に同じ様な造りをしているので、その男性患者さんは勘違いされているようでした。
 
「ここは4階です。あなたのお部屋は一階下の3階になります。」

そのように説明をすると、

男性患者さんは納得したように自分の病棟へ戻って行ったそうです。

暫く時間が経ってから、業務に必要な物品が足りないという事で、

下の階の3階ナースステーションまでAさんが借りに行く事になりました。

3階に行って見ると、ナースステーション内は人が出払っていて、

何かバタバタしているようでした。

Aさんは、看護士達が集まる場所まで行ってみると、

一人の患者さんが、今しがた亡くなられたところでした。

Aさんは、少し顔を覗かせその患者さんを見ました。

それは、先ほど部屋が分からないと、尋ねてきた男性患者さんでした。

Aさんは驚いて、先程の出来事を、この階の看護士さんに話しました。

聞いてみると、男性がうろうろ自分の部屋を探していた時間帯は、

危篤状態に陥っている時だったと分かりました。

病院の怪談にはよくあるような話ですが、

「本当にそんな事ってあるよ。」とAさんは語ってくれました。